ニンニクの手帖 其の二

初めて徳之島のゴッド・マザーに謁見したのは、2015年の3月のことだった。

徳之島で最初に有機JASの認定を取得し、島内で初の農業女性部の部長も務め、平成25年には黄綬褒章まで受章した福留ケイ子さんこそ、我がニンニク人生に最も大きな影響を与えてくれた師であり、ゴッド・マザーなのである。

そういえば、つい先日、新宿へ打ち合わせに行ったのだが、通りがかった映画館でThe Stoogesのドキュメンタリーのポスターが貼られていた。監督はジム・ジャームッシュ。すぐにチケットを買った。

荒々しくうねりまくる爆音のギターのリフの洪水の中「NO FUN MY BABY NO FUN」と上半身裸でステージ上をのたうちまわりながら歌い続けるステージから、ボーカルのイギー・ポップはパンクのゴッド・ファーザーとも呼ばれている。イギー・ポップほどニンニク感を体現するミュージシャンもなかなかいない。

あ、いきなり頭の中で、ゴッド・マザーとゴッド・ファーザーが繋がってしまった。そうか、GODのGはGarlicのGだったのか。Jesusも本当はGesusだったのかもしれない。って、何の話をしてるのか。そう、ニンニクの話だ。

もともと福留さんに会いに行ったのは、有機果樹栽培農家として取材に伺ったのだが、そこで「こんなのも育ててるのよ~」と見せたくれたのがニンニクだったのである。

ニンニクには、色んな品種があるのだが、国内で栽培されているニンニクは大きく分けて3つに分類される。一つは、国内ニンニクの生産量の8割を占めるとも言われるニンニク界の大横綱・青森県の田子で栽培されているような純白の皮に包まれた大きな粒の寒冷地タイプ。二つ目は四国や九州などで栽培されている暖地型。そして、3つ目が福留さんや沖縄などで栽培されている低緯度型である。

低緯度型は皮が赤紫のような色をしていて、粒が小さい。ところが、こいつをひとかけら口に放り込むと、噛んだ瞬間にパチンと口の中に拡がる刺激的な辛味と香りがハーモニーを奏で出す。まるで、南米の奥地で受け継がれてきた素朴でありながら洗練されたフォルクローレを聴いた時のような野生の調べ。一発で福留さんのニンニクにKOされてしまった。

しかも、徳之島では、ニンニクは実だけではなく、葉も茎も食べるという。大晦日には必ず、ホルモンと大根の千切りとニンニクの葉を炒めて食べるのが徳之島の伝統だそうだ。

ゴッド・マザーのことを話し始めるときりがなくなってしまうので、ゴッド・マザーについて知りたい方は拙著『渋谷の農家』を立ち読みしてください。

兎にも角にも、ニンニクを自分で育てようと閃いた時、真っ先に頭に浮かんだのが、「福留さんのニンニクを自分で育ててみたい」との思いだったのだ。

「僕もあのニンニクを育ててみたいんです!」そう言うと、「ハハハハ~」と何だか嬉しそうに福留さんは笑った。

「分かったよ。じゃあ、私が今年植え付けるように取っておいたニンニクを分けてあげるから。その前に、畑の土作りをしておきなさい」

翌朝、目覚ましが鳴る前にすでに目は覚めていた。よし、今から、ニンニクのための土作りだ。The Stoogesを爆音でかけながら、高速道路をすっ飛ばして、相模湖の畑へ向かった。(続く)

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